書評の道〜ビジネス書・歴史ものメイン〜

主に本の読書感想を行っています。ジャンルは、実用書、歴史が比較的多いです。


【書評】清水潔「騙されてたまるか」

 

騙されてたまるか 調査報道の裏側 (新潮新書)

騙されてたまるか 調査報道の裏側 (新潮新書)

 

 清水潔「騙されてたまるか」調査報道の裏側(新潮新書

 

 

1 どんな本か

 

 桶川ストーカー殺人事件で警察より早く犯人を探し出し、足利事件で冤罪キャンペーンを行って菅谷さん釈放に大きく貢献した「伝説の記者」こと清水潔さんが、これまで調査報道で関わってきた様々な事件をコンパクトにまとめた本です。

 

 ここでいう「調査報道」とは何かについて、清水さんは以下のように述べています。

記者が自ら調べて判断していくのが「調査報道」ということになる。発表されていないものを掘り起こすーそれが調査報道の第一の条件なのだ(74p) 

 言葉にするととても簡単ですが、いざそれを実行するのは大変な労力と覚悟が必要です。既存のメディアでの情報に頼らずに自らその真偽を確かめていくことになるので、膨大かつ地道な取材を続けて裏付けをとらなければなりません。また、いざその結果を報道するという場面でも、公官庁や大手メディアによる発表という「拠り所」がないので、報道をした全責任を背負うことになります。実際、清水さんも、その不安を述べています。

必然と最終的な責任は私自身に帰する。失敗しても人のせいにはできない。「間違っているのは、自分の方ではないか・・・」といった不安も常につきまとう(はじめにp5)

 それでも、清水さんは、徹底的な取材を通じて、大手メディアが見過ごしてきた重大な事実を掘り当てていき、ときには事件そのものも動かしていきます。

 冒頭で述べた桶川ストーカー事件や足利事件のほか、強盗殺人を犯してブラジルに逃亡した日系ブラジル人を追ってブラジルまで行き、犯人と接触までします。その結果を報道にし、結局その犯人は「代理処罰」という形でブラジルで有罪判決が下されます。

 ブラジルまで行って強盗殺人を犯した人間と接触しようなんて、普通は怖くてとてもできません。しかし、清水さんの考えは非常にシンプルです。

 

逃げるが勝ちなど許されない。法律や司法が機能しないからこそ、ジャーナリズムの存在意義が問われるのではないのか(p16) 

 清水さんは、このような素朴だけれども一貫した正義感を持ち続けているからこそ、無茶と思われるような行動にも出るし、誰も見向きもしないような問題にも徹底的に取り組むことができるのだと思いました。

 

 そのほか、刑事の公訴時効をめぐる問題や太平洋戦争での誤った発表報道など、様々な事件が取り上げられています。

 

2 本書で学んだこと

  プロフェッショナルのジャーナリストの考えや取材・調査の一端が学べました。清水さんは、決して特異な能力を発揮したりしているわけではないのですが、自分が納得いくまで地道な取材を重ねていくという姿勢をずっと貫いてきたからこそ大きな成果をあげてこられたのだと思いました。公官庁やメディアの情報を鵜呑みにするのではなく自分自身でしっかりと考えること、自分が納得がいくまで徹底的に裏付けをとることを心がけることが大切だと感じました。