書評の道〜ビジネス書・歴史ものメイン〜

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【書評】浅野佳史「たった一年で会社をわが子に引き継ぐ方法」:円滑な事業承継の秘訣

目次

わが国の法人の99%以上を占めるといわれている中小企業ですが、経営者の高齢化が進んでおり、その事業承継が大きな課題になっております。黒字続きの優良企業であっても後継者がいないために廃業せざるを得なくなるという悲惨なケースもみられます。

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わが国の経済を支える中小企業が存続していくためには事業承継を円滑に進めていくことが不可欠です。

後継者として最も一般的なのが社長の子どもです。しかし、そもそも子どもの方が承継することを嫌がったり、承継しても親である先代社長と激しく対立して血みどろの争いになってしまうこともあります。最近では、大塚家具の親子争いが大きな話題になりました。

 

今回紹介する浅野佳史「承継トラブルゼロ!たった一年で会社をわが子に引き継ぐ方法」は、トラブルがないように円滑にわが子に事業承継をさせるノウハウを解説しています。

 

子どもへの事業承継がうまくいかない理由

 著者は、子どもへの事業承継がうまくいかない理由の1つに、「強い経営者」によるトップダウンの問題をあげています。

現経営者が「強い経営者」であるということです。・・・・本当に苦労して会社を軌道に乗せて成長させてきた、いわゆるたたき上げの経営者である場合がほとんどです。ですから、自分と比べ、後継者である子どもをつい頼りなく思ってしまいます(p20) 。

 このような「強い経営者」と「頼りない後継者」の構図から、結局は前者から後者への一方的な指示・命令のような承継となってしまうという問題です。

   著者は、そのような一方通行型ではなく、後継者の意思も尊重した双方向のコミュニケーションがなければ事業承継は成功しないとしています。

 

 本書には、事業承継を成功に導くための手法が色々と書かれていますが、僕の方で特に参考になったのは以下の点です。

 

後継者との丁寧な対話が必要である

 上記で述べたように、現社長から後継者への一方通行型・トップダウン型の承継ではうまくいきません。

事業承継は、自らのコピーやクローンをつくり出すことではありません。事業を譲るのは、自分とはまったく違った人間なのですから、当然、その後継者に寄り添い、経営者が先導したりしながら対話を重ねつつ進めていく必要があるのです(p62)。

 この、事業承継は社長のコピー・クローンをつくるものではないという指摘はとても大事だと思いました。 現社長が創業者の場合ですと大変な苦労をして必死に会社を大きくしてきたという思いがあり、それゆえに自らが作り上げた会社への愛着が非常に強く、自らが行ってきた経営スタイルを後継者に求めてしまいがちです。しかし、わが子とはいえ、自分とは違う人間である以上、それを押し付けてしまうと後継者のモチベーションを下げたり、最悪の場合には承継すること自体を拒否されることにもなりかねません。

 後継者の個性や思いを尊重しながら、丁寧に対話をしていくことが重要と感じました。

新経営理念は後継者主導で考える

ここで優先し、尊重するのは、あくまでも後継者が「どういう会社をつくっていきたいか」という意思です(p104)。

 現社長としては、会社のことを隅々まで分かっているがゆえに、つい将来の会社の方向性についても決めがちです。しかし承継後に会社を引っ張っていくのは後継者であるので、後継者が自分で考えて決めなければ事業承継した意味がありません。当然親心もあるのでしょうが、つい口出ししたくところを抑えるという自己抑制が社長には求められるということです。 

 

後継者の強みを生かす

すべてを底上げしよう、後継者を万能な経営者にしようとすると必ず失敗します。ここではどうすれば後継者の強みを活かせるか、さらに伸ばせるかを念頭に置き、今後の方針を決めてください(p114)。 

 本書で何度も指摘されているとおり、現社長と後継者は全く別の人間であり、その個性や性格も異なる以上、現社長と同じ能力を求めることは非現実的です。現社長からみれば、頼りないと思ってしまう面はあるにせよ、欠点にばかり目を向けるのではなく、後継者の持っている長所や強みに着目していくことが重要です。

 

引退セレモニーの開催

 事業承継を円滑に進めるためには、現社長が潔く引退しあれこれと口うるさく指示したり頻繁に出社することを控える必要があります。しかし、自分が育ててきた会社への愛着もあって、なかなかそのふんぎりをつけることは難しいです。それを解決するために、著者は、仕入れ先や取引先も交えて経営者の引退セレモニーを開催するという方法を提案しています。このセレモニーによって、経営者は自身の花道を飾ることができ、気持ちに区切りをつけることができるということです。また、同時に、後継者を中心とする新体制のお披露目の絶好の機会にもなるとのことです。

 このアイデアは非常に素晴らしいと思いました。

まとめ

 本書を読んだまとめとして、事業承継を円滑にするためには、結局は現社長と後継者の丁寧な対話、そして現社長は後継者を自分とは違う人間であると認識してその意思を十分に尊重し、承継の道筋がついた時点で潔く引退することが重要であると感じました。

 事業承継について悩んでいる中小企業の経営者、事業承継に携わる税理士等の専門家にとって、とてもためになる本だと思います。 

 

 

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