【書評】J・P・ホーガン「星を継ぐもの」:ハードSFの大傑作
※注意
直接ネタバレになるような書き方はしておりませんが、内容の核心部分に触れる記載が含まれている可能性があります。まだ本書を読まれていない方はその点ご注意ください。
ジェイムズ・P・ホーガン「星を継ぐもの」
- 作者: ジェイムズ・P・ホーガン,池央耿
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1980/05/23
- メディア: 文庫
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舞台となるのは宇宙航行技術が発達した近未来の地球です。
月面に赤色の宇宙服をまとった死体が発見されました。その死体を地球に持ち帰って詳しく調べてみると、あらゆる面でその生物は現代人と似ていることが分かります。しかし、死亡した時期は5万年前でした。
「チャーリー」と名付けられたこの生物は何者でどこから来たのかを解明していくのが話の流れです。
チャーリーが地球人であるとする説、地球人ではなく別の惑星で独自の進化を遂げた生物であるとする説の2つが対立します。
しかし、どちらの説にも大きな問題点があります。
すなわち、地球人説をとると、チャーリーは相当高度な技術を持った文明に所属していたことからすると、その痕跡が必ず地球に残っているはずですが、その痕跡が全くないことが説明できません。
他方、地球外生物説の場合も、進化は偶然の連続で生じるものであり、地球人と地球外の生物がそれぞれ全く独立に同じ形態になるという偶然は確率的に考えてありえないことになります。
この小説には、スペースオペラ的な派手な戦闘シーンや血沸き肉躍る冒険の描写はありません。ひたすら学術的な議論が繰り返されます。その意味では非常に地味な小説です。正直僕も、冒頭から中盤当たりまでは読み進めていくのも苦痛でした。
しかし、最後に明かされる真相を読んで、文字通り体に衝撃が走りました。全ての謎を矛盾なく解決する、しかもSFならではのスケールの大きな種明かしは、今まで読み進めてきた苦労を一気に吹き飛ばすほどでした。
もちろん創作ではあるのですが、人類にはこのような歴史があったのかもしれないというロマンを感じさせてくれます。
これを読んだのは今から10年近く前ですが、読了したときの興奮と感動は今でも鮮明に覚えています。
まさにセンスオブワンダーを感じさせるSFの傑作です。SFに興味を持っている方はぜひ一読していただきたいです。