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【書評】茂木誠「経済は世界史から学べ!」:経済の理解なくして世界史の理解なし

目次

 

茂木誠「経済は世界史から学べ!」(ダイヤモンド社

経済は世界史から学べ!

経済は世界史から学べ!

 

著者の茂木誠さんは駿台予備校の世界史講師です。 

コンパクトで分かりやすい説明

 本書では、第一次世界大戦から現代までの歴史を中心に、戦争発生や同盟締結といった歴史上の重要な事象を経済的観点から説明しています。

 経済に関して説明した本というと、専門用語が羅列した難解というイメージがありますが、本書はとにかく分かりやすい。枝葉の部分はばっさりカットし、なぜそうなったのかという疑問から出発してコンパクトにまとめており、歴史の流れがよくわかります。重要なポイントは太字にし、最後に各章のまとめとして図表も掲載されており、経済についての理解に乏しい読者(僕がそうです・・・)への丁寧な配慮が盛り込まれています。

 

本書を読んで分かったこと

本書はどこを読んでも発見と驚きの連続で、自分の無知さを痛感するとともに、経済を通して世界史を理解することの重要さを知りました。

特に勉強になったことは以下のとおりです。

 

人や国は経済的な動機で動く

 第一次世界大戦にアメリカが参戦したのは、ドイツの潜水艦による無差別攻撃を阻止するというのが表向きの説明でした。しかし、本音は経済的な理由でした。

 つまり、イギリス等の連合国は軍事費を捻出するために戦時国債を発行し、その多くが販売されたのがアメリカの証券市場であり、アメリカが債権者となっていました。戦争の途中、ロシアで革命がおこりドイツと休戦し、息を吹き返したドイツ軍がフランスに攻勢をかけて連合国の旗色が悪くなります。もし連合国が敗北すれば、戦時国債が紙くずになり、アメリカは莫大な損害を被る。それを防ぐためにアメリカは参戦を決意したということです。

 宣戦布告や参戦するにあたっては、色々と大義名分が掲げられますが、実際には人や国を動かすものは経済的な利害が大きな動機であることを知り大いに勉強になりました。

 

高度経済成長は円安固定化による側面が強いこと

 戦後に日本が驚異的な経済成長ができたのは、アメリカが主導した体制によるものです。戦後、貿易を自由化しようと考えたアメリカが主導したブレトンウッズ体制により、1ドル360円という交換レートを固定化しました。これにより、今では信じられない円安のもとで輸出が促進され、日本は貿易によって大きな発展を受けたということです。

 高度経済成長期のことは神話化・理想化され、この時期に日本人がいかに勤勉に頑張ったかが強調されがちです。もちろん、日本人が頑張ったことは間違いないでしょうが、それだけではなく、驚異的な円安が固定化されていたという特殊事情があったということを無視してはならないと強く感じました。

 

バブルが起こった原因

 バブルの発生とその崩壊によって日本経済が低迷しているということは知識としては学びます。しかし、そもそもバブルが発生した詳しい背景については、よく分かっていませんでした。しかし、本書ではその疑問もすっきり説明してくれています。

 自分の備忘も兼ねてまとめておきます。

 これは、元々は日本とアメリカの貿易摩擦が背景にありました。当時アメリカは双子の赤字貿易赤字財政赤字)に苦しんでおり、特に日本からの輸出攻勢に直面していました。そこで、アメリカは各国との協調介入により円高ドル安にしようと画策しました。これによって日本製品を割高にして輸出攻勢を鈍らせるというものです。これがプラザ合意です。

 日本側も、これによって輸出業が大きな損害を受けるというのは理解していましたが、アメリカは安全保障上重要な相手であったことから、拒否することはできませんでした。プラザ合意によって輸出業は大損害を受けて円高不況に。そこで、日銀は内需を喚起しようと金利を引き下げたところ、余った預金が株式や土地への投資に回されてバブル経済が起こりました。土地は値上がりを続け、銀行も土地を担保に多額の貸し出しを行い、高級品も飛ぶように売れました。株価は上昇を続けましたが、行き過ぎを警戒した日銀が金融引き締めを行ったことで株価が暴落しバブルが崩壊したということです。

 バブル発生が、アメリカの国策と強い関係があることは本書で初めて知り、目から鱗でした。結局、日本はブレトンウッズ体制によって高度経済成長が実現した後、プラザ合意の影響でバブル発生・崩壊になっているのであり、アメリカに翻弄されたといえそうです。

 バブル発生→崩壊というプロセスはアメリカのサブプライムローンからのリーマンショックでも起こったものであり、普遍的な現象といえます。今後も他の国で発生する可能性があることは十分に考えなければならないと思いました。

 

ドイツが第四帝国と揶揄されるようになった経緯

 ユーロ圏においてドイツが絶対的な影響力を持ち、盟主的な地位にあることは新聞やテレビでよく報道されます。しかし、なぜEU圏でドイツがそこまで発展したのか、詳しいところは理解できておりませんでしたが、そのことも本書ではわかりやすく説明されています。

 つまり、ユーロという統一通貨の導入が大きいということです。ドイツは輸出大国であり、ユーロ導入によって、自国通貨であるマルク高不況を避けられるというメリットがあります。そして、ギリシア財政危機によってユーロ安が進行し、その結果ドイツ製品の価格が引き下げられ、ドイツは輸出で更なる収益を上げたという構図です。ユーロ圏内では、ギリシアの他に、イタリアやスペイン等も輸入に頼る貿易赤字国で、ユーロ安によって大きなダメージを受けます。これに対し、ドイツは輸出大国なのでユーロ安になるほど利益が上がることになり、利害が対立します。結果、ドイツはユーロを通じて欧州を支配する第四帝国と揶揄されるまでになります。

 

 ユーロ導入は、古代ローマ以来のヨーロッパ統一の象徴として肯定的に語られることが多かった印象です。しかし、理念だけではなく、経済的にどのような問題が生じるのかを現実を見据えて検討することがいかに大事かを知りました。

 

まとめ

 

経済を通して歴史を見ることが非常に重要で面白いことを教えてくれた本です。教科書では、プラザ合意やニクソンショックといった出来事について触れてはいますが、それがなぜ起こったのか、どういう意味を持つのかの説明がなく、単なる暗記になってしまっていました。本書を読むと、これまでの世界史の見方、そしてこれから経済のニュースをチェックするときの視点も大きく変わるはずです。