書評の道〜ビジネス書・歴史ものメイン〜

主に本の読書感想を行っています。ジャンルは、実用書、歴史が比較的多いです。


【書評】「ワタミの失敗」:ワタミは本当にブラックだったのか?

ブラック企業という用語はすっかり世間に定着しました。最近はブラックバイトなる用語も登場してその元アルバイトが裁判を起こしたこともあり、ブラック企業に対する風当たりはますます強くなっているように思います。

ブラック企業と聞いて皆さんが思い浮かべる企業は人によってさまざまでしょうが、その筆頭としてワタミを挙げる人は多いと思われます。従業員が過労死自殺をして裁判にまで発展したこと、「365日24時間死ぬまで働け」という強烈なフレーズなどなど、ワタミ=ブラックという構図で連日マスコミ報道がされている印象が強かったです。

ではワタミは報道されているほど悪辣でひどい会社なのでしょうか。ワタミとワンセットで語られる渡邉美樹氏は従業員を平気で切り捨てるような極悪経営者だったのでしょうか。現在のワタミはどうなっているのでしょうか。その一端を知ることができるのが、新田龍「ワタミの失敗‐『善意の会社』がブラック企業と呼ばれた構造‐」(㈱KADOKAWA)です。

ワタミの失敗  「善意の会社」がブラック企業と呼ばれた構造

ワタミの失敗 「善意の会社」がブラック企業と呼ばれた構造

 

著者はブラック企業アナリストとして、舌鋒鋭くワタミを批判していた方ですが、経営危機に陥ったワタミから組織改革への助言を求められ、従業員を含めた多くの関係者から聞き取りを行ってワタミの内実を明らかにしたのが本書です。

 

目次 

 

従業員への待遇は決して悪くない

マスコミ報道では、あたかもワタミは従業員を使い捨てにする企業といったイメージで徹底的に叩かれてていました。

ところが、本書によると、ワタミの福利厚生や給与水準等は、決して悪いものではなく、むしろ高いレベルにあるということです。しかも、離職率も業界平均よりも低い水準であり、従業員がどんどん辞めさせられるといった実態もありません。

このように、報道でのイメージと実際の水準や数字とは乖離していることになり、ワタミだけが突出してブラック企業として非難されるべきいわれはありません。

「365日24時間死ぬほど働け」の意味

ワタミブラック企業とする証拠としてほぼ必ず持ち出されるのが、渡邉氏の思想が凝縮された同社の「理念集」に出てくる「365日24時間働け」というフレーズです。この言葉だけを取り出すと、従業員に対して仕事のための無限の奉仕を強要するという強烈な印象を与え、ブラック企業であるとのイメージを持たせるものです。

しかし、このフレーズの文脈を考えると、そうとはいえません。このフレーズは、上司が部下に対して真剣に向き合っていないことを咎め、部下に対して丁寧に愛情をもって接してほしいというメッセージを伝える流れで出てくるものです。しかも、「この言葉が、一人歩きすることを、私は恐れる」と記載されており、このフレーズだけを取り出して使うことに注意をしています。

実際にこのフレーズが一人歩きしてしまったわけで、もう少し穏当な表現を用いるべきだったという点でやや配慮には欠けていましたが、前後の文脈と合わせて読むと、決して奴隷のような労働を強いるメッセージではありません。

 僕も、このフレーズは度々目にしており、「こんな言葉を使うワタミはブラックだよな」と思っていました。恥ずかしながら、本書を読んで初めて元となった文章を知りました。特定のフレーズだけを取り出すのではなく、前後の文章と一緒に理解することがいかに大事かということに気づかされました。

事故発生後の広報の失敗

 上記のように、実態を踏まえると決して悪質な会社とはいえないのに、なぜここまでブラック企業との批判が過熱したのか。

著者はその原因を詳しく分析していますが、僕が特に印象に残ったのが、ワタミが「危機管理広報」に失敗したという点です。

元従業員が過労自殺したという重大な結果が生じて世間の批判も高まっていたにもかかわらず、ワタミやトップである渡邉氏からは当初公式のコメントも発表されず、渡邉氏が自社の対応に問題はなかったという趣旨の発言を繰り返してしまったことで、世間から反省していないと受け止められ大きなバッシングを受けることになってしまいました。

過労自殺が労災に当たるかどうか、ワタミが法的責任を負う必要があるかといった点については当然法的な問題でありワタミ側としても言い分はあったのでしょうが、やはり従業員が亡くなっているという重大な事態になっていることから、その点に配慮すべきでした。

従業員の過労自殺は一定規模以上の会社であれば決して珍しいことではありません。他の大企業でも過労自殺は起こっています。従業員が過労自殺したからといって、直ちにその会社がブラックと断言することはできません(もちろん、過労自殺が起こってもよいと言っているわけではありません。念のため)。ワタミの場合、過労自殺という事件そのものというより、その後の対応がブラック企業とのバッシングを招いた決定的な原因のように思われます。

 事故や不祥事そのものではなく、それに対する会社の対応やコメントが世間の反発を買ってネットを中心に炎上するという事象がしばしば起こっています。比較的最近の事例では、舛添前都知事の不適切会計について、その支出自体というよりは、それに対する開き直りともいえる態度や言動に批判が巻き起こって辞任に至ってしまいました。

渡邉氏は「善意の塊」?

ワタミといえば渡邉氏を思い浮かぶほど、その存在感は圧倒的です。上記の「365日24時間死ぬまで働け」とのフレーズとも相まって、渡邉氏も従業員を使い潰すブラック経営者というイメージで語られることが多いです。

しかし、著者によると渡邉氏の実像は大きく違います。

渡邉にとって、ワタミの社員は「社員」ではない。志を同じくした「ファミリー」であり、同じミッションを遂行する「同志」でもある。たとえ話などではなく、渡邉は本気でそう信じている(67頁) 

 私利私欲のための搾取といった邪悪な意図ではなく、純粋の従業員の成長と、それによる社会貢献を追及したことで、「善意による、無自覚なブラック化」が起きてしまったという構図である(71頁)

 

 著者は渡邉氏は「善意の塊」であると評します。渡邉氏は決して悪人ではなく、従業員のことを心から愛して成長を願うあまり、過大な要求をしてしまい、結果としてそれについてこれない従業員を追い詰めてしまったということです。

まとめ

本書を読んで、これまで報道でしか知らなかったワタミの実態を知ることができ、報道されるイメージと本書で語られる実像とのギャップの大きさに軽い衝撃を受けました。やはり、報道を鵜呑みにするのではなく、自分でも問題意識をもって情報に当たらないといけないと強く思いました。

一度ブラック企業というレッテルを貼られるとそのダメージは甚大です。実際、ワタミもブラック批判が起こってから業績不振が深刻で、倒産の危機すらありました。特に現代は完全なネット社会で、1つ対応を間違えると容易にネットで批判が拡散して炎上に至ってしまいます。ワタミという会社あるいは渡邉氏は決して「ブラック」と呼ばれるような実態ではありませんでしたが、過労自殺が起こった後の対応を誤ってしまいブラックとの烙印を押されてしまいました。本書は、ブラック企業と批判されないための教訓を色々教えてくれているので、とても勉強になりました。

 

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【書評】半藤一利「昭和史1926‐1945」:昭和史を知るための最適な入門書

戦後70年が過ぎ、先の戦争を体験した人はどんどん減っており、記憶の風化が懸念されるところです。学校の授業でも戦争のことは必ず習いますが、どうしても「あの戦争は悪だった」という視点が中心となり、いかに戦争の被害が重大だったかという説明がされる傾向にあります。もちろん、あの戦争がどれだけの被害をもたらしたかということを知ることは極めて大事だと思います。ただ、その悲惨な戦争をもう繰り返さないというためには、なぜあの無謀な戦争に至ってしまったのかというプロセスを知っておく必要があります。戦争や昭和史に関する書籍は膨大ですが、その中でも半藤一利さんの「昭和史」が最初に読む一冊としては最もおすすめです。

 

昭和史 1926-1945 (平凡社ライブラリー)

昭和史 1926-1945 (平凡社ライブラリー)

 

分かりやすい語り口

 この本は、若い編集者が昭和史を理解できるようにするために、半藤さんが講義形式で語った内容(半藤さんの表現を借りれば「昭和史講座のための寺子屋」)をまとめたものです。

もとが講義形式ということもあって、平易な語り口ですらすらと読んでいくことができます。教科書では無味乾燥な説明で終わっている出来事を、背景事情やその出来事の持つ意味や後の出来事への影響等を、半藤さんの圧倒的な知識をもとに丁寧に説明してくれます。多くの政治家や軍人もアメリカを敵に回すことが無謀であることは分かっていたのに、結局は破滅の道を選んでいってしまう。アメリカとの参戦の決意も、合理的かつ確固たる国家方針でされたのではなく、曖昧で楽観的な予測のもとでいわば行き当たりばったりで突き進んでしまったという点は、背筋が凍る思いがしました。

 

むすびの章で、半藤さんは戦争に進んでしまった昭和史の教訓をまとめています。それは、国民的熱狂をつくってはいけないことや、具体的な理性的な方法論ではなく抽象的な観念論に逃げてはいけないことといった点ですが、これらの教訓は、現代の日本でも十分通用するように思えました。

 

まとめ

 戦争に至る昭和史全般を本当に分かりやすく解説してくれているので、昭和史を知ろうという人はまずこの本を手に取ってみることを強くおすすめします。先日ブログで紹介した出口治明さんがこの本を絶賛したのもうなずけます。

 

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【書評】出口治明「仕事に効く教養としての『世界史』」:世界史の見方が変わる!

目次

 

グローバル化が進んで他国との距離が近くなってくるにつれ、それぞれの国の成り立ちを知っておかなければならないということで、世界史の勉強が大事だという声をよく聞きますし、世界史特集も増えているように思います。とはいえ、教科書を読んでも、人物や出来事が時系列に沿って淡々と書かれるだけで、正直退屈なことが多いですよね。

しかし、出口治明「仕事に効く教養としての『世界史』」を読めば、世界史の見方が大きく変わります。

 

仕事に効く 教養としての「世界史」

仕事に効く 教養としての「世界史」

 

著者の出口治明さんは、 ライフネット生命の会長兼CEOというバリバリの経営者ですが、他方で稀代の読書家としても知られまた歴史の造詣も深いということで、様々な本を執筆したり著名人と対談したりと大活躍されていますね。

出来事の羅列ではなく「生きた」歴史を知る面白さ

 本書は、訪れた世界の年が1000を超え、読んだ歴史書は5000冊以上という出口さんが独自の切り口で世界史を解説してくれています。

冒頭の奈良時代の女帝の説明からまず目から鱗が落ちました。出口さんは、奈良時代に多く誕生した女帝(持統天皇元明天皇等)は、同時期に大活躍していた中国の則天武后ロールモデルとして頑張ったのではないかという説を述べておられ、男性の中継ぎという従来の見方に疑問を投げかけます。この説が学術的にどこまでの信憑性があるのかは知りませんが、日本だけではなく同時代の中国にまで視野を広げて柔軟に考えてみるという発想はとても刺激的でした。

他にも、中国を理解する四つの鍵、キリスト教とローマ教会・教皇との関係、人工国家という視点でとらえたアメリカとフランスの特異性といった興味深いテーマが取り上げられており、どのテーマでも新たな発見があり読んで飽きません。

高度経済成長期は例外という認識

出口さんは、終章で日本のことに触れており、戦後の高度経済成長は幸運が重なった例外的な時代だったという認識を持つべきと指摘します。

つまり、戦後、中国は共産党が支配したので、アメリカにとってアジアで残されたパートナーは日本しかいなかったこと、人口が増え続ける、朝鮮戦争による特需が発生する、そういった幸運が何重にも重なったから実現したというものです。あくまでも例外的な時代だったのであるから、それをスタンダードとして考えるべきではないという主張には大いに共感できました。

組織も人も、高度成長期の成功体験が忘れられず、それを前提とした古い考え方で突き進んでしまっている例は多いと思います。

歴史の大きな流れの中で、それぞれの時代を冷静に客観的に分析していくという視点が大事であると気づかされました。

まとめ

 歴史が嫌いという人、苦手意識がある人にこそぜひ読んでもらいたい本です。単なる出来事の羅列ではなく、出口さんならではの鋭い切り口からの解説に魅了されることでしょう。

 

 

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自分の書評のスタイル

ブログを開設してもうすぐ1か月となります(8月19日開設)。

 

毎日更新とはいかず、まだ書評記事自体も少ないので、書評について偉そうに語れるほどではありません。それでも、定期的に書評記事を書くということはブログで初めて行ったもので、色々と気付いたりしたことがあったので、自分の備忘録も兼ねてまとめてみようと思います。

 

 

ジャンル‐ビジネス書と歴史本

ブログトップ画面でも記載していますが、ジャンルとしてはビジネス書と歴史書を中心としています。そもそもブログを始めようと思ったのは、仕事に役立てようとビジネス書を読んだのに結局頭に残らずしばらく経つと忘れてしまうということが繰り返されてきたので、備忘のために記録化しようと思ったからです。そのため、ジャンルはビジネス書を中心とすることにしました。

ただ、ビジネス書の書評ブログは山ほどあります。僕は歴史好きということもあり、ビジネス書に加えて歴史本もジャンルに加えることで特色を出そうと考えました。とはいえ、まだ歴史本の書評は全然アップできていないので、今後はこのジャンルの書評記事を増やしていこうと思います。

人にお勧めしたい本を選ぶ

せっかくブログで記事をアップする以上、読んでくれた人に役立つような情報を提供したいと思います。そのため、書評で取り上げる本は、自分が読んで役に立ったと思ったもの、他の人に知ってほしいと思ったものを中心としています。

書評記事の書き方

書評記事というのは今まで本格的に書いた経験がなく、 それこそ中学・高校での読書感想文の作文が最後です。

これまでも書評サイトを見ることが多く、なんとなく自分でもできそうな気がしていましたが、これが思い上がりということに気づかされました。

本の内容を過不足なくまとめ、魅力が伝わるような文章を書くというのがこんなに大変だということ。漠然と頭の中にあるイメージを言語化する難しさを実感しました。そのため、最初はどのように書けばよいのかわからず手探りでした。

それでも、何本か書評記事を投稿 していくうちに、ぼんやりとですが自分の記事のスタイルが固まってきたように思います。

 

現時点での僕の書評記事のスタイルは以下のような内容です。

  • いきなり本の内容から入らない
  • 引用は多用しない
  • まとめでその本の特に魅力的な点を伝える

 

以下、順番に説明していきます。

いきなり本の内容から入らない

冒頭から本の内容に入ってしまうと唐突な感じがして、読み手としては準備ができないまま読まされることになりよくありません。まずワンクッションを置いて一呼吸入れてから、本の内容を説明するようにしています。これは天声人語のスタイルを大いに参考にしています。 

引用を多用しない

本の記述内容を引用すると、記事に説得力を持たせることができるし、インパクトを与えることができるので、とても便利です。そのため、つい引用をたくさん使いたくなってしまいます。

しかし、あまり引用を多用すると、結局本の記述を貼りつけただけの記事になってしまう危険があります。引用を効果的に使うことは大事ですが、それに頼り切るのではなく自分なりの文章で説明をするよう心がけています。

 

まとめでその本の特に魅力的な点を伝える

他の人にもぜひ知ってほしいおすすめの本を取り上げるので、単にその本の内容を紹介するのではなく、その本のどこが従来のものと違うのか、どのような特色があるのか、そういった魅力を分かりやすく伝えたいと思います。ただ、あまり色々と説明しても結局何をアピールしたいのかが分かりづらくなるので、最後に「まとめ」の項目を設けて、僕が考えるその本の最も大きな魅力をできるだけ簡潔に記載するようにしています。

 

いかがでしょうか。 今後もこのスタイルを守りつつ、「読んでみようかな」と思ってもらえるような書評記事を書いていきたいと思います。 

 

 

 

 

 

【書評】「決算書はここだけ読め!」:タイトルに偽りなし

仕事をしていく中で、貸借対照表や損益計算書といった会計書類を読む機会がある方は多いと思います。しかし、複雑な勘定科目と数字がずらっと並んでいる姿を見て、何をどう分析するのかわからず苦手意識を持っている方も多いのではないでしょうか(僕自身もそうでした)。

僕も決算書の入門書に関しては色々と読んでみたのですが、難しい内容のものも多かったです。そんな僕が今まで読んできた中で、決算書の読み方についての一番のお勧めはこの本です。

 

前川修満「決算書はここだけ読め!」(講談社現代新書

決算書はここだけ読め! (講談社現代新書)

決算書はここだけ読め! (講談社現代新書)

 

「読み手の会計学」からの視点

 

この本の何が魅力的かというと、徹底的に「読み手の会計学」の視点から書いてくれているところです。

会計士や経理担当者といった「作り手の会計学」からの視点では、どうしても決算書を作成するための難しく細かい話が必要となります。しかし、多くの人にとっては「作り手」としてではなく「読み手」として決算書を読む立場ですので、そのような話をしてもニーズに合致せず、かえって苦手意識を助長するだけです。

著者はこれを料理を作る人と食べる人との比喩を用いて説明します。

料理を食べる人には、料理を作るための知識は要りません。当たり前です。決算書も、これと同じです。決算書を読む人には、決算書を作るための知識は要りません(5頁

 本書では、普通の入門書ではほぼ必ず触れられている複式簿記の原理や会計基準といった点の説明は殆どされず、(会計に精通していない)読み手にとって決算書のどこに着目すべきかを極力ポイントを絞って説明しています。

この手の本では、著者の殆どは公認会計士・税理士といった会計専門家です(本書の著者もそうです)。これらの会計専門家は当然ですが圧倒的な知識量があるので、あれもこれもということでつい会計の専門的な説明をしてしまいがちです。しかし、本書ではあえてそのような説明はばっさりカットしてくれているので、会計の知識が全くない初心者でもストレスなく読み進めていくことができます。

 

また、実際の企業の決算書も紹介しながら、読むべきポイントやそれを踏まえた分析も説明しており、もっと決算書を読んでみたいと思わせてくれます。

まとめ

入門書とは、初心者が苦手意識を持たずにその分野の概要をイメージできるようにし、次のレベルの本に進むためのきっかけを与えてくれる本であることが望まれます。入門書といいながら、専門的な説明ばかりで苦手意識を持たせてしまっては本末転倒です。

しかし、本書を読むにあたって会計の知識は全く必要なく、自信をもっておすすめできる入門書です。

 

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あえて情報を出さない売り方

今日の日経新聞に、ある書店で、あえて本の表紙を隠して書名や著者等を分からなくしてお勧めするという手法をとったところ、とても好評でよく売れたという記事がありました。

www.nikkei.com

 

書評・レビュー溢れている現代においてあえて情報を出さないという手法は、コロンブスの卵的な発想でとても面白いと思いました。人は、情報を隠されると覗いてみたいという本能があるようで、その特性を巧みについた戦略ですね。

本を売るという昔ながらの商売であっても、工夫次第で面白く売る方法があるということに気付かされ、色々な意味で勉強になりました。

どんな商品・サービスであっても、切り口を変えられないか、ひと手間加えられないかといった柔軟な視点を持つことが大事だと感じた次第です。

 

【書評】佐原雅史「知財戦略の教科書」 膨大な情報がお金に変わる?

目次

 

市場が成熟し、消費者のニーズが多様化・複雑化した現代では、ただ機能の良い製品を作っても売れるというわけではありません。会社は創意工夫を凝らして自己の市場を守り、あるいは新規に開拓して生き残りをはかっていかなければなりません。

とはいえ、具体的にどうすればよいのか?そこで重要な役割を果たすのが「知財」すなわち知的財産です。今回紹介するこの本は、知財を戦略的に活用して企業経営に生かしていく方法について書かれています。

 

知財=特許ではない

 

知財というと、どうしても特許や商標、著作権といった法律で保護された権利をイメージします。しかし、本書が取り扱っているのは、そのような法的保護の対象となるものに限定されておらず、日々の企業活動で発生する情報全般です。著者は、これを「知識資料」と定義します。

 

まずは、従業員が収集したり、作成したりした、再利用価値のあるすべての情報を「知識資料」と認識してください。顧客リスト、名刺リスト、クレーム情報、市場調査、実験・試験データ、開発ノート、アイデアメモ、設計図、商品パンフレット、企画提案書など、これらはすべて「知識資料」です(30~31頁)。

 

 

 

本書が特徴的なのは、この知識資料を①顧客に関する情報である「販売先資料型」、②商品アイデアについての「アイデア資料型」、③業務マニュアルである「マニュアル資料型」の3つに類型化しているところです。その上で、自社の業務のタイプによってこれらの3つの資料の重要度が変わってくるとします(例えば、メーカーであればアイデア資料型、サービス業であればマニュアル資料型というように)。会社における情報をこのような視点で整理した本はあまり見当たらず、目から鱗でした。

知識資料の活用が大事

 

そして、この知識資料をいかに戦略的に活用していくことが重要であるとします。

知財戦略では、知識資料の「蓄積」「換金」「 守り」の3S活動を、部門間で協力して、バランスよく実行していくことを心がけます(42頁)。

特に印象に残ったのは、従業員個々のアイデアやノウハウを会社全体で共有化していつでも取り出せる状態にしておくことが大事という点です。確かに、従業員はそれぞれ独自の工夫を凝らしたり貴重な経験を積んでいるにもかかわらず、その情報が共有されないまま捨てられてしまうのは大きな損失です。様々な情報が組み合わさって化学反応が起こってイノベーションのきっかけとなることも考えると、知識資料の蓄積と共有化はとても大事だと感じました。もっとも、ただ情報を蓄積していっても、膨大なゴミが増えるだけにもなりかねないところなので、このあたりの取捨選択をどうするかは課題だと思いました。

知財戦略=権利化ではない

知財戦略というと、特許をとって守るというイメージがありますが、本書は、そのような権利化だけではなく、知識資料を隠して守る(ノウハウ化)ほうがよい場合もあるとし、安易な権利化に注意を促しています。特許をとると、アイデアを公開しなければならないため、公開によって発明の価値を大きく損なうような場合にはむしろ特許ではなく、ノウハウ化によって隠すほうがよいということです。

まとめ

日々の業務で生まれた情報でもそれが蓄積されると宝の山になり、うまく活用すると売上増大に寄与できるということが分かりました。企業においては知識資料を戦略的に生かすため、知識資料についての従業員の意識を変えていくことが大事だと思いました。