書評の道〜ビジネス書・歴史ものメイン〜

主に本の読書感想を行っています。ジャンルは、実用書、歴史が比較的多いです。


【書評】「日本一社員がしあわせな会社のヘンな”きまり”」:超ホワイト企業の実態が分かる

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不景気と呼ばれて久しい日本経済ですが、少子高齢化が進む中では今までより一層生産性を上げていくことが求められます。国の調査によると、日本の全会社のうち中小企業が占める割合は99%以上とされ、中小企業が成長して利益を出していくことが大事ですが、中小企業の多くは下請けで大手からの受注に依存し、赤字経営も常態化しているなど、苦しい状況が続いています。また、社員の給与も低く、サービス残業が当たり前というところも多いように思います。

しかし、中小企業であっても創意工夫次第では、社員の待遇を充実させながら売り上げを伸ばしていくことができます。今回紹介する本の著者の会社がまさにそうです。

日本一社員がしあわせな会社のヘンな“きまり”

日本一社員がしあわせな会社のヘンな“きまり”

 

著者の山田昭男さんは、未来工業株式会社の創業者です。未来工業は、創業以来赤字にはならず業績を伸ばし続ける優良企業で、社員の平均給与600万円で残業なし、年間休日140日という労働者にとってスーパーホワイト企業ともいうべき存在です。

 

  本書では、山田さんがどのような思いでこの驚異的な会社を作ってきたのかが書かれています。

 

1 徹底的な差別化

 山田さんが心がけているのは、ある意味で非常にシンプルで、徹底的に差別化するということです。同業他社と同じことをしても利益が出ないのであれば、他と違うことをするという発想です。未来工業がすごいのは、その差別化をとことんまで突き詰めるところです。

  例えば次のような方策です。

うちは、何をするにもよそと差別化する方針だから、「提案書を出したら封を切る前に500円を支給する」ことにした(19頁)。

  このアイデアは衝撃でした。普通は、会社に役に立つ優れた提案を審査した上で報奨金の支給を決めるものだと思います。それを、中身も確認せずに提出だけで支給するというのは尋常ではありません。しかし、社員が実名で提案するという以上、あまりに適当なアイデアを出すと社内での評判にかかわるのでモラルハザードには歯止めはかかりますし、提出さえすればよいということで提案をしやすくなり結果として会社に有益なアイデアが出ることが期待できるので、よく考えられた合理的な方針だと思います。

  

2 社員をコスト扱いしない

 徹底的な差別化という考えは社員への待遇にも現れています。

人をコスト扱いするなと言いたい。例えば会社が月に30万円払うところを15万円で済んだとしようか。しかし、同じことをさせておいて半分しか払わないのに、パート社員が正社員と同じ気持ちで仕事をすると思うか?働くわけがないだろう(92頁)。

 慈善の精神からではなく、会社の利益につながるというある意味でドライで合理的な考えから社員の待遇面を充実させるということです。残業を禁止したり休日を増やすのも、社員のモチベーションを上げて会社の利益向上につなげるためです。

 

3 まとめ

常に考える。他人と差別化する。いいと思ったことは恐れず行動に移す。だめならすぐに戻す(175頁)。

企業が成長するために差別化が大事ということは既に言い尽くされているところです。ただ、差別化を中途半端ではなく、突き詰めて徹底し尽くすことが大事であると実感しました。

 

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【書評】林總「ドラッカーと会計の話をしよう」:ストーリー仕立てで会計・経営を深く勉強できる!

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仕事上、企業に関わることが多いのですが、会社の情報や業績を知るためには会計の知識を持っていることが必須です。特に会計について専門的な勉強や訓練をしたことはないのですが会計本はかなり読み漁りました。その甲斐あって、貸借対照表や損益計算書といった財務諸表の各項目の読み方やそれらを駆使した経営分析(収益性分析、効率性分析、安全性分析等)もそれなりにできるようになりました。

会計は最初はとっつきにくかったのですが、学習が進んでイメージがつかめるようになるとがぜん面白くなり、ビジネス上でのあらゆる取引や現象を借方・貸方で整理できるという整理の美しさもあいまって、どんどんはまっていきました。

そして、会計が分かるようになると、なんとなく経営のことも理解できるようになった気でいました。

しかし、公認会計士の林總さんが執筆した「ドラッカーと会計の話をしよう」を読んで、自分の無知と傲慢さを思い知らされました。

 

ドラッカーと会計の話をしよう (中経の文庫)

ドラッカーと会計の話をしよう (中経の文庫)

 

経営の本質論と会計をつなぐ 

この本は、事業の不振に苦しんでいる経営者が、たまたま飛行機で乗り合わせた初老の名経営者から、ピーター・ドラッカーの言葉を適宜引用しながら、会計・経営のレッスンを受けるという形でストーリーが展開していきます。2部構成となっており、前半は不振にあえぐイタリアンレストランのオーナー、後半は赤字経営の病院の副院長が主人公です。

会計の用語や概念はもちろん多く出てきますが、本書は単なる会計の解説書とは全く異なります。 損益計算書上黒字となっているからといって経営として儲かっているわけではない、企業として重視すべきは会計上の利益ではなくキャッシュを生み出しているかどうかである、「明日の主力商品」にこそコストをかけて育てていかなければならずそれを無視して一律にコストカットをするのはナンセンスといった、会計をどう経営に生かすかという視点が貫かれています

本書から学ぶことはとても多く、うまくまとめることは難しいですが、僕なりの理解としては、小手先の会計テクニックを駆使して短期的に黒字を追いかけるのではなく、長期的な視野をもって価値を生み出し続けていくことこそが経営の本質であり、それを支えるために会計が存在するというものです。

まとめ

この本を読んで、会計を学んだだけで経営が分かると考えることがいかに愚かであるかを学びました。普通の会計本を読んでも書かれていない、経営の本質論が随所に盛り込まれており、会計についてある程度学習が進んで一定の知識・理解がある人はぜひ読んでいただきたいです。

 

【書評】「ワタミの失敗」:ワタミは本当にブラックだったのか?

ブラック企業という用語はすっかり世間に定着しました。最近はブラックバイトなる用語も登場してその元アルバイトが裁判を起こしたこともあり、ブラック企業に対する風当たりはますます強くなっているように思います。

ブラック企業と聞いて皆さんが思い浮かべる企業は人によってさまざまでしょうが、その筆頭としてワタミを挙げる人は多いと思われます。従業員が過労死自殺をして裁判にまで発展したこと、「365日24時間死ぬまで働け」という強烈なフレーズなどなど、ワタミ=ブラックという構図で連日マスコミ報道がされている印象が強かったです。

ではワタミは報道されているほど悪辣でひどい会社なのでしょうか。ワタミとワンセットで語られる渡邉美樹氏は従業員を平気で切り捨てるような極悪経営者だったのでしょうか。現在のワタミはどうなっているのでしょうか。その一端を知ることができるのが、新田龍「ワタミの失敗‐『善意の会社』がブラック企業と呼ばれた構造‐」(㈱KADOKAWA)です。

ワタミの失敗  「善意の会社」がブラック企業と呼ばれた構造

ワタミの失敗 「善意の会社」がブラック企業と呼ばれた構造

 

著者はブラック企業アナリストとして、舌鋒鋭くワタミを批判していた方ですが、経営危機に陥ったワタミから組織改革への助言を求められ、従業員を含めた多くの関係者から聞き取りを行ってワタミの内実を明らかにしたのが本書です。

 

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従業員への待遇は決して悪くない

マスコミ報道では、あたかもワタミは従業員を使い捨てにする企業といったイメージで徹底的に叩かれてていました。

ところが、本書によると、ワタミの福利厚生や給与水準等は、決して悪いものではなく、むしろ高いレベルにあるということです。しかも、離職率も業界平均よりも低い水準であり、従業員がどんどん辞めさせられるといった実態もありません。

このように、報道でのイメージと実際の水準や数字とは乖離していることになり、ワタミだけが突出してブラック企業として非難されるべきいわれはありません。

「365日24時間死ぬほど働け」の意味

ワタミブラック企業とする証拠としてほぼ必ず持ち出されるのが、渡邉氏の思想が凝縮された同社の「理念集」に出てくる「365日24時間働け」というフレーズです。この言葉だけを取り出すと、従業員に対して仕事のための無限の奉仕を強要するという強烈な印象を与え、ブラック企業であるとのイメージを持たせるものです。

しかし、このフレーズの文脈を考えると、そうとはいえません。このフレーズは、上司が部下に対して真剣に向き合っていないことを咎め、部下に対して丁寧に愛情をもって接してほしいというメッセージを伝える流れで出てくるものです。しかも、「この言葉が、一人歩きすることを、私は恐れる」と記載されており、このフレーズだけを取り出して使うことに注意をしています。

実際にこのフレーズが一人歩きしてしまったわけで、もう少し穏当な表現を用いるべきだったという点でやや配慮には欠けていましたが、前後の文脈と合わせて読むと、決して奴隷のような労働を強いるメッセージではありません。

 僕も、このフレーズは度々目にしており、「こんな言葉を使うワタミはブラックだよな」と思っていました。恥ずかしながら、本書を読んで初めて元となった文章を知りました。特定のフレーズだけを取り出すのではなく、前後の文章と一緒に理解することがいかに大事かということに気づかされました。

事故発生後の広報の失敗

 上記のように、実態を踏まえると決して悪質な会社とはいえないのに、なぜここまでブラック企業との批判が過熱したのか。

著者はその原因を詳しく分析していますが、僕が特に印象に残ったのが、ワタミが「危機管理広報」に失敗したという点です。

元従業員が過労自殺したという重大な結果が生じて世間の批判も高まっていたにもかかわらず、ワタミやトップである渡邉氏からは当初公式のコメントも発表されず、渡邉氏が自社の対応に問題はなかったという趣旨の発言を繰り返してしまったことで、世間から反省していないと受け止められ大きなバッシングを受けることになってしまいました。

過労自殺が労災に当たるかどうか、ワタミが法的責任を負う必要があるかといった点については当然法的な問題でありワタミ側としても言い分はあったのでしょうが、やはり従業員が亡くなっているという重大な事態になっていることから、その点に配慮すべきでした。

従業員の過労自殺は一定規模以上の会社であれば決して珍しいことではありません。他の大企業でも過労自殺は起こっています。従業員が過労自殺したからといって、直ちにその会社がブラックと断言することはできません(もちろん、過労自殺が起こってもよいと言っているわけではありません。念のため)。ワタミの場合、過労自殺という事件そのものというより、その後の対応がブラック企業とのバッシングを招いた決定的な原因のように思われます。

 事故や不祥事そのものではなく、それに対する会社の対応やコメントが世間の反発を買ってネットを中心に炎上するという事象がしばしば起こっています。比較的最近の事例では、舛添前都知事の不適切会計について、その支出自体というよりは、それに対する開き直りともいえる態度や言動に批判が巻き起こって辞任に至ってしまいました。

渡邉氏は「善意の塊」?

ワタミといえば渡邉氏を思い浮かぶほど、その存在感は圧倒的です。上記の「365日24時間死ぬまで働け」とのフレーズとも相まって、渡邉氏も従業員を使い潰すブラック経営者というイメージで語られることが多いです。

しかし、著者によると渡邉氏の実像は大きく違います。

渡邉にとって、ワタミの社員は「社員」ではない。志を同じくした「ファミリー」であり、同じミッションを遂行する「同志」でもある。たとえ話などではなく、渡邉は本気でそう信じている(67頁) 

 私利私欲のための搾取といった邪悪な意図ではなく、純粋の従業員の成長と、それによる社会貢献を追及したことで、「善意による、無自覚なブラック化」が起きてしまったという構図である(71頁)

 

 著者は渡邉氏は「善意の塊」であると評します。渡邉氏は決して悪人ではなく、従業員のことを心から愛して成長を願うあまり、過大な要求をしてしまい、結果としてそれについてこれない従業員を追い詰めてしまったということです。

まとめ

本書を読んで、これまで報道でしか知らなかったワタミの実態を知ることができ、報道されるイメージと本書で語られる実像とのギャップの大きさに軽い衝撃を受けました。やはり、報道を鵜呑みにするのではなく、自分でも問題意識をもって情報に当たらないといけないと強く思いました。

一度ブラック企業というレッテルを貼られるとそのダメージは甚大です。実際、ワタミもブラック批判が起こってから業績不振が深刻で、倒産の危機すらありました。特に現代は完全なネット社会で、1つ対応を間違えると容易にネットで批判が拡散して炎上に至ってしまいます。ワタミという会社あるいは渡邉氏は決して「ブラック」と呼ばれるような実態ではありませんでしたが、過労自殺が起こった後の対応を誤ってしまいブラックとの烙印を押されてしまいました。本書は、ブラック企業と批判されないための教訓を色々教えてくれているので、とても勉強になりました。

 

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【書評】「決算書はここだけ読め!」:タイトルに偽りなし

仕事をしていく中で、貸借対照表や損益計算書といった会計書類を読む機会がある方は多いと思います。しかし、複雑な勘定科目と数字がずらっと並んでいる姿を見て、何をどう分析するのかわからず苦手意識を持っている方も多いのではないでしょうか(僕自身もそうでした)。

僕も決算書の入門書に関しては色々と読んでみたのですが、難しい内容のものも多かったです。そんな僕が今まで読んできた中で、決算書の読み方についての一番のお勧めはこの本です。

 

前川修満「決算書はここだけ読め!」(講談社現代新書

決算書はここだけ読め! (講談社現代新書)

決算書はここだけ読め! (講談社現代新書)

 

「読み手の会計学」からの視点

 

この本の何が魅力的かというと、徹底的に「読み手の会計学」の視点から書いてくれているところです。

会計士や経理担当者といった「作り手の会計学」からの視点では、どうしても決算書を作成するための難しく細かい話が必要となります。しかし、多くの人にとっては「作り手」としてではなく「読み手」として決算書を読む立場ですので、そのような話をしてもニーズに合致せず、かえって苦手意識を助長するだけです。

著者はこれを料理を作る人と食べる人との比喩を用いて説明します。

料理を食べる人には、料理を作るための知識は要りません。当たり前です。決算書も、これと同じです。決算書を読む人には、決算書を作るための知識は要りません(5頁

 本書では、普通の入門書ではほぼ必ず触れられている複式簿記の原理や会計基準といった点の説明は殆どされず、(会計に精通していない)読み手にとって決算書のどこに着目すべきかを極力ポイントを絞って説明しています。

この手の本では、著者の殆どは公認会計士・税理士といった会計専門家です(本書の著者もそうです)。これらの会計専門家は当然ですが圧倒的な知識量があるので、あれもこれもということでつい会計の専門的な説明をしてしまいがちです。しかし、本書ではあえてそのような説明はばっさりカットしてくれているので、会計の知識が全くない初心者でもストレスなく読み進めていくことができます。

 

また、実際の企業の決算書も紹介しながら、読むべきポイントやそれを踏まえた分析も説明しており、もっと決算書を読んでみたいと思わせてくれます。

まとめ

入門書とは、初心者が苦手意識を持たずにその分野の概要をイメージできるようにし、次のレベルの本に進むためのきっかけを与えてくれる本であることが望まれます。入門書といいながら、専門的な説明ばかりで苦手意識を持たせてしまっては本末転倒です。

しかし、本書を読むにあたって会計の知識は全く必要なく、自信をもっておすすめできる入門書です。

 

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あえて情報を出さない売り方

今日の日経新聞に、ある書店で、あえて本の表紙を隠して書名や著者等を分からなくしてお勧めするという手法をとったところ、とても好評でよく売れたという記事がありました。

www.nikkei.com

 

書評・レビュー溢れている現代においてあえて情報を出さないという手法は、コロンブスの卵的な発想でとても面白いと思いました。人は、情報を隠されると覗いてみたいという本能があるようで、その特性を巧みについた戦略ですね。

本を売るという昔ながらの商売であっても、工夫次第で面白く売る方法があるということに気付かされ、色々な意味で勉強になりました。

どんな商品・サービスであっても、切り口を変えられないか、ひと手間加えられないかといった柔軟な視点を持つことが大事だと感じた次第です。

 

【書評】佐原雅史「知財戦略の教科書」 膨大な情報がお金に変わる?

目次

 

市場が成熟し、消費者のニーズが多様化・複雑化した現代では、ただ機能の良い製品を作っても売れるというわけではありません。会社は創意工夫を凝らして自己の市場を守り、あるいは新規に開拓して生き残りをはかっていかなければなりません。

とはいえ、具体的にどうすればよいのか?そこで重要な役割を果たすのが「知財」すなわち知的財産です。今回紹介するこの本は、知財を戦略的に活用して企業経営に生かしていく方法について書かれています。

 

知財=特許ではない

 

知財というと、どうしても特許や商標、著作権といった法律で保護された権利をイメージします。しかし、本書が取り扱っているのは、そのような法的保護の対象となるものに限定されておらず、日々の企業活動で発生する情報全般です。著者は、これを「知識資料」と定義します。

 

まずは、従業員が収集したり、作成したりした、再利用価値のあるすべての情報を「知識資料」と認識してください。顧客リスト、名刺リスト、クレーム情報、市場調査、実験・試験データ、開発ノート、アイデアメモ、設計図、商品パンフレット、企画提案書など、これらはすべて「知識資料」です(30~31頁)。

 

 

 

本書が特徴的なのは、この知識資料を①顧客に関する情報である「販売先資料型」、②商品アイデアについての「アイデア資料型」、③業務マニュアルである「マニュアル資料型」の3つに類型化しているところです。その上で、自社の業務のタイプによってこれらの3つの資料の重要度が変わってくるとします(例えば、メーカーであればアイデア資料型、サービス業であればマニュアル資料型というように)。会社における情報をこのような視点で整理した本はあまり見当たらず、目から鱗でした。

知識資料の活用が大事

 

そして、この知識資料をいかに戦略的に活用していくことが重要であるとします。

知財戦略では、知識資料の「蓄積」「換金」「 守り」の3S活動を、部門間で協力して、バランスよく実行していくことを心がけます(42頁)。

特に印象に残ったのは、従業員個々のアイデアやノウハウを会社全体で共有化していつでも取り出せる状態にしておくことが大事という点です。確かに、従業員はそれぞれ独自の工夫を凝らしたり貴重な経験を積んでいるにもかかわらず、その情報が共有されないまま捨てられてしまうのは大きな損失です。様々な情報が組み合わさって化学反応が起こってイノベーションのきっかけとなることも考えると、知識資料の蓄積と共有化はとても大事だと感じました。もっとも、ただ情報を蓄積していっても、膨大なゴミが増えるだけにもなりかねないところなので、このあたりの取捨選択をどうするかは課題だと思いました。

知財戦略=権利化ではない

知財戦略というと、特許をとって守るというイメージがありますが、本書は、そのような権利化だけではなく、知識資料を隠して守る(ノウハウ化)ほうがよい場合もあるとし、安易な権利化に注意を促しています。特許をとると、アイデアを公開しなければならないため、公開によって発明の価値を大きく損なうような場合にはむしろ特許ではなく、ノウハウ化によって隠すほうがよいということです。

まとめ

日々の業務で生まれた情報でもそれが蓄積されると宝の山になり、うまく活用すると売上増大に寄与できるということが分かりました。企業においては知識資料を戦略的に生かすため、知識資料についての従業員の意識を変えていくことが大事だと思いました。

 

 

 

【書評】「レッドオーシャンで儲ける7つの法則」:イノベーションは天才でなくても起こせる

高度経済成長が過去のものとなり、グローバル化が進み競争が激化した現在の日本において、企業が成長を続けるにはイノベーションが大事だということが叫ばれています。しかし、そのイノベーションはどうやって起こせばよいのか分かりません。イノベーションというと、スティーブジョブズのようなカリスマ経営者の天才的な閃きが不可欠なようにも思えます。

 

しかし、今回紹介する高橋正明「レッドオーシャンで儲ける7つの法則」(マイナビ新書)は、凡人であっても正しい戦略を立てれば、イノベーションを起こす確率を高めることが可能であることを教えてくれます。 

レッド・オーシャンで儲ける7つの法則 (マイナビ新書)

レッド・オーシャンで儲ける7つの法則 (マイナビ新書)

 

イノベーションを起こすための戦略があった

この本は、まずイノベーションというのは、狙い通りに的中させることは難しく、偶然の要素で起こる、つまり必勝法はないという前提にたちます。

ビジネスの世界では、環境は常に変化するので、同じ法則を使っても、同じ結果は期待できません。残念ながら、レッド・オーシャンを脱して儲ける「必勝法」は存在しないのです(45頁)。

 しかし、必勝法はないのであれば、試行錯誤を重ねることで勝率を高めるという発想の転換をすべきとします。つまり、失敗は当たり前ということを前提として、トライアンドエラーの繰り返しによって、「当たり」が出るのを待つということです。

本書では、イノベーションの成功確率を高める方法として、以下の7つの法則を挙げています。

・法則1 身近なところから考える

・法則2 既存の製品・サービスを徹底的に分解する

・法則3 既にあるコンセプトを別の場所で実現する

・法則4 足したら引く、引いたら足す

・法則5 失敗を日常にする

・法則6 走りながら考えよ

・法則7 焦るな!スピードよりも持続力

 

 僕なりにまとめると、業界で当たり前となっている既成概念を疑い、自分達が提供している商品やサービスの要素を徹底的に分解してその要素を付け加えたりもしくは引くことを考えてみる、あとは失敗を気にせずにとにかく色々と試してみる、ということなのかなと思います。

まとめ

本書には、天才の閃きや一か八かの博打に任せるのではなく、イノベーションを起こす確率を高めるための具体的な方法論が書かれています。イノベーションを扱った本の多くが、この企業はこんな取り組みをして成功したといった結果論からみた事例報告で終わっており、参考にはなってもいかにしてイノベーションを起こすのかは書かれていません。

しかし、本書は適宜具体例を出しつつも普遍的・一般的な法則を導き出したうえですぐにでも実践できるノウハウを教えてくれているので、新たな取り組みを考えている経営者や企画担当者にとっては非常に参考になるのではないでしょうか。