書評の道〜ビジネス書・歴史ものメイン〜

主に本の読書感想を行っています。ジャンルは、実用書、歴史が比較的多いです。


【書評】J・P・ホーガン「星を継ぐもの」:ハードSFの大傑作

 

※注意

直接ネタバレになるような書き方はしておりませんが、内容の核心部分に触れる記載が含まれている可能性があります。まだ本書を読まれていない方はその点ご注意ください。

 

ジェイムズ・P・ホーガン「星を継ぐもの」 

星を継ぐもの (創元SF文庫)

星を継ぐもの (創元SF文庫)

 

舞台となるのは宇宙航行技術が発達した近未来の地球です。

月面に赤色の宇宙服をまとった死体が発見されました。その死体を地球に持ち帰って詳しく調べてみると、あらゆる面でその生物は現代人と似ていることが分かります。しかし、死亡した時期は5万年前でした。

「チャーリー」と名付けられたこの生物は何者でどこから来たのかを解明していくのが話の流れです。

チャーリーが地球人であるとする説、地球人ではなく別の惑星で独自の進化を遂げた生物であるとする説の2つが対立します。

しかし、どちらの説にも大きな問題点があります。

すなわち、地球人説をとると、チャーリーは相当高度な技術を持った文明に所属していたことからすると、その痕跡が必ず地球に残っているはずですが、その痕跡が全くないことが説明できません。

他方、地球外生物説の場合も、進化は偶然の連続で生じるものであり、地球人と地球外の生物がそれぞれ全く独立に同じ形態になるという偶然は確率的に考えてありえないことになります。

 

 

この小説には、スペースオペラ的な派手な戦闘シーンや血沸き肉躍る冒険の描写はありません。ひたすら学術的な議論が繰り返されます。その意味では非常に地味な小説です。正直僕も、冒頭から中盤当たりまでは読み進めていくのも苦痛でした。

しかし、最後に明かされる真相を読んで、文字通り体に衝撃が走りました。全ての謎を矛盾なく解決する、しかもSFならではのスケールの大きな種明かしは、今まで読み進めてきた苦労を一気に吹き飛ばすほどでした。

 

もちろん創作ではあるのですが、人類にはこのような歴史があったのかもしれないというロマンを感じさせてくれます。

これを読んだのは今から10年近く前ですが、読了したときの興奮と感動は今でも鮮明に覚えています。

まさにセンスオブワンダーを感じさせるSFの傑作です。SFに興味を持っている方はぜひ一読していただきたいです。

 

【書評】茂木誠「経済は世界史から学べ!」:経済の理解なくして世界史の理解なし

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茂木誠「経済は世界史から学べ!」(ダイヤモンド社

経済は世界史から学べ!

経済は世界史から学べ!

 

著者の茂木誠さんは駿台予備校の世界史講師です。 

コンパクトで分かりやすい説明

 本書では、第一次世界大戦から現代までの歴史を中心に、戦争発生や同盟締結といった歴史上の重要な事象を経済的観点から説明しています。

 経済に関して説明した本というと、専門用語が羅列した難解というイメージがありますが、本書はとにかく分かりやすい。枝葉の部分はばっさりカットし、なぜそうなったのかという疑問から出発してコンパクトにまとめており、歴史の流れがよくわかります。重要なポイントは太字にし、最後に各章のまとめとして図表も掲載されており、経済についての理解に乏しい読者(僕がそうです・・・)への丁寧な配慮が盛り込まれています。

 

本書を読んで分かったこと

本書はどこを読んでも発見と驚きの連続で、自分の無知さを痛感するとともに、経済を通して世界史を理解することの重要さを知りました。

特に勉強になったことは以下のとおりです。

 

人や国は経済的な動機で動く

 第一次世界大戦にアメリカが参戦したのは、ドイツの潜水艦による無差別攻撃を阻止するというのが表向きの説明でした。しかし、本音は経済的な理由でした。

 つまり、イギリス等の連合国は軍事費を捻出するために戦時国債を発行し、その多くが販売されたのがアメリカの証券市場であり、アメリカが債権者となっていました。戦争の途中、ロシアで革命がおこりドイツと休戦し、息を吹き返したドイツ軍がフランスに攻勢をかけて連合国の旗色が悪くなります。もし連合国が敗北すれば、戦時国債が紙くずになり、アメリカは莫大な損害を被る。それを防ぐためにアメリカは参戦を決意したということです。

 宣戦布告や参戦するにあたっては、色々と大義名分が掲げられますが、実際には人や国を動かすものは経済的な利害が大きな動機であることを知り大いに勉強になりました。

 

高度経済成長は円安固定化による側面が強いこと

 戦後に日本が驚異的な経済成長ができたのは、アメリカが主導した体制によるものです。戦後、貿易を自由化しようと考えたアメリカが主導したブレトンウッズ体制により、1ドル360円という交換レートを固定化しました。これにより、今では信じられない円安のもとで輸出が促進され、日本は貿易によって大きな発展を受けたということです。

 高度経済成長期のことは神話化・理想化され、この時期に日本人がいかに勤勉に頑張ったかが強調されがちです。もちろん、日本人が頑張ったことは間違いないでしょうが、それだけではなく、驚異的な円安が固定化されていたという特殊事情があったということを無視してはならないと強く感じました。

 

バブルが起こった原因

 バブルの発生とその崩壊によって日本経済が低迷しているということは知識としては学びます。しかし、そもそもバブルが発生した詳しい背景については、よく分かっていませんでした。しかし、本書ではその疑問もすっきり説明してくれています。

 自分の備忘も兼ねてまとめておきます。

 これは、元々は日本とアメリカの貿易摩擦が背景にありました。当時アメリカは双子の赤字貿易赤字財政赤字)に苦しんでおり、特に日本からの輸出攻勢に直面していました。そこで、アメリカは各国との協調介入により円高ドル安にしようと画策しました。これによって日本製品を割高にして輸出攻勢を鈍らせるというものです。これがプラザ合意です。

 日本側も、これによって輸出業が大きな損害を受けるというのは理解していましたが、アメリカは安全保障上重要な相手であったことから、拒否することはできませんでした。プラザ合意によって輸出業は大損害を受けて円高不況に。そこで、日銀は内需を喚起しようと金利を引き下げたところ、余った預金が株式や土地への投資に回されてバブル経済が起こりました。土地は値上がりを続け、銀行も土地を担保に多額の貸し出しを行い、高級品も飛ぶように売れました。株価は上昇を続けましたが、行き過ぎを警戒した日銀が金融引き締めを行ったことで株価が暴落しバブルが崩壊したということです。

 バブル発生が、アメリカの国策と強い関係があることは本書で初めて知り、目から鱗でした。結局、日本はブレトンウッズ体制によって高度経済成長が実現した後、プラザ合意の影響でバブル発生・崩壊になっているのであり、アメリカに翻弄されたといえそうです。

 バブル発生→崩壊というプロセスはアメリカのサブプライムローンからのリーマンショックでも起こったものであり、普遍的な現象といえます。今後も他の国で発生する可能性があることは十分に考えなければならないと思いました。

 

ドイツが第四帝国と揶揄されるようになった経緯

 ユーロ圏においてドイツが絶対的な影響力を持ち、盟主的な地位にあることは新聞やテレビでよく報道されます。しかし、なぜEU圏でドイツがそこまで発展したのか、詳しいところは理解できておりませんでしたが、そのことも本書ではわかりやすく説明されています。

 つまり、ユーロという統一通貨の導入が大きいということです。ドイツは輸出大国であり、ユーロ導入によって、自国通貨であるマルク高不況を避けられるというメリットがあります。そして、ギリシア財政危機によってユーロ安が進行し、その結果ドイツ製品の価格が引き下げられ、ドイツは輸出で更なる収益を上げたという構図です。ユーロ圏内では、ギリシアの他に、イタリアやスペイン等も輸入に頼る貿易赤字国で、ユーロ安によって大きなダメージを受けます。これに対し、ドイツは輸出大国なのでユーロ安になるほど利益が上がることになり、利害が対立します。結果、ドイツはユーロを通じて欧州を支配する第四帝国と揶揄されるまでになります。

 

 ユーロ導入は、古代ローマ以来のヨーロッパ統一の象徴として肯定的に語られることが多かった印象です。しかし、理念だけではなく、経済的にどのような問題が生じるのかを現実を見据えて検討することがいかに大事かを知りました。

 

まとめ

 

経済を通して歴史を見ることが非常に重要で面白いことを教えてくれた本です。教科書では、プラザ合意やニクソンショックといった出来事について触れてはいますが、それがなぜ起こったのか、どういう意味を持つのかの説明がなく、単なる暗記になってしまっていました。本書を読むと、これまでの世界史の見方、そしてこれから経済のニュースをチェックするときの視点も大きく変わるはずです。

【書評】「THE BOOKS green 365人の本屋さんが中高生に心から推す『この一冊』」:読みたいが本がきっと見つかる

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毎年膨大な数の本が出版されていますが、今の情報社会であまりに情報が多すぎ、どの本がよいのか、選ぶだけでも大変です。

 

1つの方法としては、本のプロである書店員さんがお勧めする本を選ぶということでしょう。書店員さんにお勧め本を紹介してもらうことについては、以前記事を書きました。

 

muyuyu.hatenablog.com

 

 

今回紹介する本は、まさに全国の書店員さんが「これは」と思うお勧め本をまとめたものです。

 

THE BOOKS green 365人の本屋さんが中高生に心から推す「この一冊」

THE BOOKS green 365人の本屋さんが中高生に心から推す「この一冊」

 

 「竜馬がゆく」「舟を編む」といったメジャーな作品がある一方、見たことも聞いたこともない本も多数紹介されています。 

個性あふれる書店員さんの紹介文

単なる本の紹介ではなく、それを選んだ書店員さんのコメントもつけられていますが、これが面白い!どんなときにその本と出会ったか、それを読んでどう自分が変わったか、どんな人におすすめか等等、アマゾンで紹介されている説明とは違った書店員さんの個性が現れる手作り感満載の紹介文を読むだけで楽しいです。

 個人的には伊坂幸太郎陽気なギャングが地球を回す」を選んだ書店員さんの次のコメントがとても印象に残りました。

この本があなたの成績をあげることはないでしょう。この本があなたの人生観を大きく変えてしまう、といったこともないと思います。しかし、この本はあなたに物語に沈み込む心地良さを、小説の奥深さを、何よりも本を読むことの楽しさを教えてくれるはずです(p311)。

 

「この本が役に立つから読め」といった押しつけがましさは全くなく、純粋に読書の面白さを熱く伝えてくれています。

 

読んでみたいなと思った本

 ここで紹介されているものの中で、読んでみたいと思ったのは以下の本です。

 

誰も知らない 世界と日本のまちがい 自由と国家と資本主義

誰も知らない 世界と日本のまちがい 自由と国家と資本主義

 

従来の常識を疑えということ。 

 

 

火星年代記 (ハヤカワ文庫SF)

火星年代記 (ハヤカワ文庫SF)

 

 SFは最近読んでいないので久しぶりに読みたいです。

 

本を味方につける本 ---自分が変わる読書術 (14歳の世渡り術)
 

子ども向けの読書の勧めですが、今読んでも役立ちそう。

 

最後まであきらめない人がやっぱり一番強い! (KAWADE夢新書)
 

 継続していくことが大切とのこと。

 

世界を変えた10冊の本 (文春文庫)

世界を変えた10冊の本 (文春文庫)

 

池上さん流の分かりやすい語り口で名著を楽しみたいです。

 

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池上彰さんから学ぶ情報の整理や伝え方のノウハウ

 

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1月6日のNHKあさイチプレミアムトークのゲストは池上彰さんでした。

プレミアムトーク 池上彰|NHKあさイチ

 

新聞の読み方や整理の仕方、分かりやすい伝え方といった池上さん流のノウハウを惜しげもなく披露してくれ、とてもためになりました。

 

特に参考になった点を備忘も兼ねてまとめておきます。

新聞は気になる記事だけ切り取って保存する

 池上さんは毎日10紙以上の新聞を読むそうです。ただ、最初から全ての記事を丁寧に読むことはせず、見出しを見て気になった記事を切り取ってクリアファイルに入れて保存するという方法をとっているとのこと。

僕も新聞をとっていますが、つい全ての記事を丁寧に読もうと意識するあまり、かえって読む時間がないという悪循環になってしまいがちです。完璧主義を捨て、メリハリを重視して気になる記事だけ切り取るという方法はハードルも低く、長続きできそうです。

 ゲーム的な要素を持ち込む

池上さんは、新聞のコラム欄を読む際には、「最初の書き出し部分を読んだだけで、どのような内容の文章であるかを予測して、その予測が当たれば自分の勝ち、外れたら負け」という勝負をしているとおっしゃっていました。

新聞を義務的に読むとなるとモチベーションが上がりにくいですが、勝ち負けのゲームの要素を持ち込むことで、毎日楽しんで読むことができ、工夫された方法だと思いました。

人に伝えるときは3つにまとめる

 人に分かりやすく伝えるためのコツとして、池上さんは、何でも盛り込むのではなく、伝えたいことを3つにまとめることが大事とおっしゃっていました。5つも6つもあると覚えきれないし、2つとなると物足りない気がするところ、3という数字が最も良いとのこと。つい、欲張っても多くのことを詰め込みたくなるところですが、3つに絞ることで優先順位が明確になります。また、3つで良いと割り切ることで、難しく考えすぎずにすみます。 

 まとめ

膨大な知識を持ち、分かりやすい説明では他の追随を許さない池上さんならではのテクニックを知ることができとても参考になりました。これをもとに、自分なりに情報収集や伝え方をもっと磨いていきたいと思います。

 

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スマホ依存からの脱却の決意

 

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今やスマホは生活になくてはならない必需品になり、肌身離さず持っています。

ブログやツイッターを見たりニュースをチェックしたり、暇つぶしにYouTubeを見たり、スマホを見る時間は相当長くなっています。

 

新しい情報や鋭いコメント等、色々と役に立つ情報を入手できることもあるのですが、ついダラダラといじっていることの方が多い気がしています。最近は食事中や移動中にも頻繁に見るようになっており、このままではまずいと思っております。

 

もちろん、スマホは有益なツールなので使う時間をゼロにすることはできないのですが、もう少し主体的かつ効率的にスマホと付き合うことが必要だと思いました。

 

そこで、新年にもなったことですし、スマホ依存気味になっていた今までを反省し、今年からは使い方を工夫しようと思っております。

※仕事用のメールを確認する場合や必要な調べ物をする場合、ブログを書く場合等の使用は対象外です。ここでは、特に明確な目的もなく惰性でダラダラ使用することを念頭に置いています。 

精神論ではうまくいかない

今までも、「スマホを見る時間を少なくしよう」と決意して実行を試みたことは何度かありますが、いずれも長続きせず元に戻ってしまいました。

 「スマホをできるだけ見ないよう頑張るぞ」という決意だけで、具体的な方法もなく精神論に終わっていたことが原因だと思います。僕自身、意志は弱い方なので、精神論だけでは継続は不可能ということに気づきました。

 

使用する時間帯や制限時間を設ける

精神論で終わらせないために、実行可能な具体的な方法を考える必要がありました。

そこで、思いついたのが、スマホを開く時間を朝昼晩の一日三回とした上で、使用する時間を合計で1時間以内に制限するというものです。

「できるだけ見ないようにする」という曖昧な目標ではなかなか実行ができないので、具体的な数字で決めることにしました。

 

  また、制限時間を設けることで、メリハリや優先順位がつくようになり、より有益な情報収集ができることを目指しています。

 

ご褒美を用意する

 自分のためとはいえ、制限を課されるというのは結構しんどいものです。そこで、アメも用意することにしました。

具体的には、上記の朝昼晩の3回ずつで1時間以内という目標を達成できたかどうかを記録化し、1週間継続できた場合にはお菓子を買ってもよいという形にしました。

 

子どものしつけのようなアイデアで恥ずかしい気もしますが、このようなご褒美がモチベーション維持に有効なように思います。

 

まとめ

まだ始めたばかりで継続できるかは未知数ですが、今までのように精神論ですませるのではなく、継続できるよう色々とアイデアを考えたので、なんとか今年は惰性でのスマホ使用を減らせるようにしたいと思います。

 

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時間管理のノウハウ

本日の日経プラスワンの「何でもランキング」は達人の時間管理術がテーマで、時間管理に役立つノウハウが色々と紹介されていました。

 

いくつか参考になったものがありました。

 

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スケジュール表にはその日の具体的な業務を書く

  これは、タスクを細分化して、この日はこれ、この日はこれという具体的な作業内容を書いておくというものです。

  確かに、大雑把に「◯◯の件」とだけ書くと、つい後回しにしてしまいがちですが、タスクを細かく切り出すことで、その日にできることをこなし、作業を進めることができます。

 

メールを開く時間帯を決める

  メールが届く度にすぐ返信するのではなく、メールを見る時間帯を大まかに朝昼晩の3回と決めてそのタイミングで返信するという方法が紹介されています。

  書類を書いたり調べ物をしている最中に届いたメールを確認すると、その都度作業が中断して、効率が悪くなります。

  その都度返信ということに固執せず、時間帯を決めるというノウハウは目から鱗でした。

 

8割でOK

  まじめな人ほど完璧主義に陥ってしまいがちですが、時間管理の達人の多くは完璧を目指さず8割でOKという心構えでいるとのこと。

  確かに全てのことに全力投球するというのは理想ではあるのですが、それをずっと継続していくことは困難です。いつでも一定のパフォーマンスを発揮するためには完璧主義はかえってよくないということでしょう。

 

順位付けをする

  この記事には紹介されていませんが、僕が心がけているものは、その日にやるべきタスクに1番から優先順位をつけて、必ずこの日にこなすべきもの、翌日以降になってもかまわないものを区別するということです。

  タスクはいくらでも増えていき一日で全てをこなすことは絶対にできないので、その限られた時間の中で優先順位をつけることが大事と考えています。

  とはいえ、僕もまだ時間管理が上手ではなく色々と失敗もしています。今回の記事を参考にしながら、もっと効率的な時間の使い方を身に付けたいと思います。

 

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【書評】浅野佳史「たった一年で会社をわが子に引き継ぐ方法」:円滑な事業承継の秘訣

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わが国の法人の99%以上を占めるといわれている中小企業ですが、経営者の高齢化が進んでおり、その事業承継が大きな課題になっております。黒字続きの優良企業であっても後継者がいないために廃業せざるを得なくなるという悲惨なケースもみられます。

www.nhk.or.jp

わが国の経済を支える中小企業が存続していくためには事業承継を円滑に進めていくことが不可欠です。

後継者として最も一般的なのが社長の子どもです。しかし、そもそも子どもの方が承継することを嫌がったり、承継しても親である先代社長と激しく対立して血みどろの争いになってしまうこともあります。最近では、大塚家具の親子争いが大きな話題になりました。

 

今回紹介する浅野佳史「承継トラブルゼロ!たった一年で会社をわが子に引き継ぐ方法」は、トラブルがないように円滑にわが子に事業承継をさせるノウハウを解説しています。

 

子どもへの事業承継がうまくいかない理由

 著者は、子どもへの事業承継がうまくいかない理由の1つに、「強い経営者」によるトップダウンの問題をあげています。

現経営者が「強い経営者」であるということです。・・・・本当に苦労して会社を軌道に乗せて成長させてきた、いわゆるたたき上げの経営者である場合がほとんどです。ですから、自分と比べ、後継者である子どもをつい頼りなく思ってしまいます(p20) 。

 このような「強い経営者」と「頼りない後継者」の構図から、結局は前者から後者への一方的な指示・命令のような承継となってしまうという問題です。

   著者は、そのような一方通行型ではなく、後継者の意思も尊重した双方向のコミュニケーションがなければ事業承継は成功しないとしています。

 

 本書には、事業承継を成功に導くための手法が色々と書かれていますが、僕の方で特に参考になったのは以下の点です。

 

後継者との丁寧な対話が必要である

 上記で述べたように、現社長から後継者への一方通行型・トップダウン型の承継ではうまくいきません。

事業承継は、自らのコピーやクローンをつくり出すことではありません。事業を譲るのは、自分とはまったく違った人間なのですから、当然、その後継者に寄り添い、経営者が先導したりしながら対話を重ねつつ進めていく必要があるのです(p62)。

 この、事業承継は社長のコピー・クローンをつくるものではないという指摘はとても大事だと思いました。 現社長が創業者の場合ですと大変な苦労をして必死に会社を大きくしてきたという思いがあり、それゆえに自らが作り上げた会社への愛着が非常に強く、自らが行ってきた経営スタイルを後継者に求めてしまいがちです。しかし、わが子とはいえ、自分とは違う人間である以上、それを押し付けてしまうと後継者のモチベーションを下げたり、最悪の場合には承継すること自体を拒否されることにもなりかねません。

 後継者の個性や思いを尊重しながら、丁寧に対話をしていくことが重要と感じました。

新経営理念は後継者主導で考える

ここで優先し、尊重するのは、あくまでも後継者が「どういう会社をつくっていきたいか」という意思です(p104)。

 現社長としては、会社のことを隅々まで分かっているがゆえに、つい将来の会社の方向性についても決めがちです。しかし承継後に会社を引っ張っていくのは後継者であるので、後継者が自分で考えて決めなければ事業承継した意味がありません。当然親心もあるのでしょうが、つい口出ししたくところを抑えるという自己抑制が社長には求められるということです。 

 

後継者の強みを生かす

すべてを底上げしよう、後継者を万能な経営者にしようとすると必ず失敗します。ここではどうすれば後継者の強みを活かせるか、さらに伸ばせるかを念頭に置き、今後の方針を決めてください(p114)。 

 本書で何度も指摘されているとおり、現社長と後継者は全く別の人間であり、その個性や性格も異なる以上、現社長と同じ能力を求めることは非現実的です。現社長からみれば、頼りないと思ってしまう面はあるにせよ、欠点にばかり目を向けるのではなく、後継者の持っている長所や強みに着目していくことが重要です。

 

引退セレモニーの開催

 事業承継を円滑に進めるためには、現社長が潔く引退しあれこれと口うるさく指示したり頻繁に出社することを控える必要があります。しかし、自分が育ててきた会社への愛着もあって、なかなかそのふんぎりをつけることは難しいです。それを解決するために、著者は、仕入れ先や取引先も交えて経営者の引退セレモニーを開催するという方法を提案しています。このセレモニーによって、経営者は自身の花道を飾ることができ、気持ちに区切りをつけることができるということです。また、同時に、後継者を中心とする新体制のお披露目の絶好の機会にもなるとのことです。

 このアイデアは非常に素晴らしいと思いました。

まとめ

 本書を読んだまとめとして、事業承継を円滑にするためには、結局は現社長と後継者の丁寧な対話、そして現社長は後継者を自分とは違う人間であると認識してその意思を十分に尊重し、承継の道筋がついた時点で潔く引退することが重要であると感じました。

 事業承継について悩んでいる中小企業の経営者、事業承継に携わる税理士等の専門家にとって、とてもためになる本だと思います。 

 

 

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