書評の道

主に本の読書感想を行っています。ジャンルは、実用書、歴史が比較的多いです。


【書評】「世界史としての日本史」:広い視野を持って日本を考えることができる良書

先の戦争については、侵略行為であり深く反省すべきという意見がある一方、欧米の圧政からアジア諸国を解放するための正義の戦争であったとして賛美する論調もあり、イデオロギーも絡み合った激しい応酬がされることが多いです。

しかし、どのような立場をとるにせよ、戦争に至るまでの経緯や戦争中に起こった出来事を、事実ベースで正確かつ冷静に把握することが大前提です。この前提を抜きにして、事実誤認あるいは重大な事実が抜けたまま論じても何の意味もありません。

 

今回紹介する、半藤一利出口治明「世界史としての日本史」は、先の戦争が正しいか、間違っていたかという主義主張ではなく、当時の世界情勢やそのとき日本の首脳部がどのように考えたのかといった点を分かりやすく示してくれます。

世界史としての日本史 (小学館新書)
 

半藤一利さんは昭和史研究の第一人者で、昭和史に関する数多くの著作があります。このブログでも取り上げた「昭和史」は、昭和の始まりから戦争に至るまでの プロセスが分かりやすく簡潔にまとめられており、昭和史を知るための最良の入門書といえます。

 

「昭和史」に関する過去の記事はこちら。 

muyuyu.hatenablog.com

 

 

出口治明さんはライフネットのCEOを務める一方、稀代の読書家として知られ、世界史の造詣も非常に深い方です。

出口さんが執筆された「仕事に効く教養としての『世界史』」は以前このブログでも取り上げました。 

muyuyu.hatenablog.com

 

本書は、日本史・世界史に精通したお二人の対談をまとめたものです。

先の戦争について中心にお二人がそれぞれの見解を述べておられます。

初めて聞く話も多く、興味深く読むことができたのですが、とりわけ僕が読んで参考になったのは以下の点です。

 

日露戦争は出口戦略がしっかりしていた 

日露戦争では、日本の首脳は戦争を終わらせる方法を最初から考えており戦争に臨んだということが紹介されています。その例として、伊藤博文の側近の金子賢太郎がセオドア・ルーズヴェルト大統領にロビー活動して、仲介をしてくれるよう工作したということが挙げられています。

 

これに対し、太平洋戦争では、日本の指導者達は、戦争の終わらせ方についての戦略がなかったとしています。

太平洋戦争とはそこで全然違うんですよね。昭和の政治家も軍人も戦争の終わらせ方を考えもせずに開戦に強引に踏み込んでいる(p93)。 

 

戦争というのは一度始めると簡単に終わらせることはできませんし、多大な犠牲を伴います。そのためには、どのような形で決着をつけるのかを入念に考えなければならないはずなのに、太平洋戦争のときにはそのような出口戦略がなかった。その事実にただ戦慄するとともに、祖国のために必死で戦って散っていった先人達の犠牲は何だったのかと考えると気の毒でなりません。

 

出口戦略を考えなければならないというのは、戦争に限らず、例えば企業が行う大規模な投資にもあてはまるのではないでしょうか。いきあたりばったりで考えるのではなく、どのような事態が生じたらどう対応するのか、どのような場合に撤退するのか、事前に考えておくことの重要性を感じました。

 

無条件降伏に固執したアメリカにも問題がある

戦争の終結が長引いたのは、早く無条件降伏しなかった日本が悪かったという論調も根強いように思います。僕も学校の授業など学んだ限りではそのような印象を持っていました。

しかし、本書では、無条件降伏に固執したアメリカのルーズヴェルトにも問題があったと指摘しています。

チャーチルとのカサブランカ会談では、断固として無条件降伏以外ではこの戦争をやめない、徹底的に日本とドイツをつぶすと、無条件降伏以外は認めないと宣言しています。

それに対し、チャーチルは、それを言い出すと戦争が終わらない、無限に続けなければならなくなると反対するんですが、ルーズヴェルトは聞く耳をもたないんですね。死ぬまで大いなる旗印として掲げた。日本からすれば、この無条件降伏ほど、この戦争を惨憺たるものにした要因はないんですよ。無条件では何をされるかわからないんだから、徹底抗戦するしかないと思い込んでしまいますよ(p189~190)。

 

 日本にとっての正義の聖戦だと美化するのではなく、かといって全て日本が悪かったと過度に自虐するのではなく、相手国であるアメリカの対応についても問題がある点は冷静に批判するといったバランスのとれた視点が重要だと思いました。

 

まとめ

先の戦争については、正義の聖戦か侵略戦争かといった両極端な評価がいまだ多いように思います。その是非はともかくとして、何が起こったのかを事実ベースでとらえなおし、そこから学ぶことがないかといった視点でとらえなおす必要があります。

本書は、そのような視点を養うのに大変役に立つと思います。