書評の道〜ビジネス書・歴史ものメイン〜

主に本の読書感想を行っています。ジャンルは、実用書、歴史が比較的多いです。


【書評】「池上彰のニュースそうだったのか!!いまさら聞けない『イスラム世界』のきほん」

イスラム世界やイスラム教のことはよくわからず、アラブの大金持ち、過激派によるテロといった、断片的あるいは偏ったイメージを持ってしまいがちです。

池上彰さん「そうだったのか!!いまさら聞けない『イスラム世界』のきほん」(SB Creative)は、イスラム教の教えやイスラム世界(いわゆる中東)のことを分かりやすく解説してくれています。

 

 

 本書の特徴

本書では、そもそもイスラム教とはどのような宗教で、コーランにはどのようなことが書かれているか、ジハードとはどういう意味かといったイスラム教の基本に関する解説のほか、イスラム世界である中東地域の情勢やその歴史的経緯を取り扱っています。

 

教科書的な機械的・事務的な説明ではなく、池上さん流の咬み砕いた説明で、すらすらと読み進めることができます。

 

サウジアラビアとイランの関係を軸に中東情勢を整理する

中東地域の情勢は非常に複雑で、僕自身、全くわかっていませんでした。しかし、本書を読んで、サウジアラビアとイランという2つの大国を軸にして考えると整理しやすくなることが分かり、とても参考になりました。

サウジアラビアとイランの関係は時代によって良好だったり険悪だったり目まぐるしく変わっていたということも本書によってはじめて知りました。

すなわち、1970年代までは両国の関係は良好だったものの、1979年にイラン革命がおこりイスラムシーア派原理主義者が支配するようになったことで、スンニ派サウジアラビアが危機感を持ち、関係が悪化し国交断絶に至りました。

その後、イラクフセイン大統領が中東の覇権を握ろうと周辺国に武力行使を始めたことを機に、サウジアラビアとイランはともに危機感を抱いたことから再び両国は国交を回復し良好な関係になりました。

しかし、2000年代に入りイランが核開発をしていたことが発覚し、再び関係は悪化します。

その後、「アラブの春」による民主化運動がサウジアラビアにも波及した際、サウジアラビアとしては、イランに扇動されたシーア派が国内を混乱させたと考え、国内のシーア派指導者を逮捕し、両国の関係はまた悪化します。

その後もシリアやイエメンでスンニ派シーア派の争いに両国が介入していわば代理戦争の形になっている中で、2016年にサウジアラビアが上記で逮捕したシーア派の指導者を処刑し、両国の関係は決定的に悪くなり、ついには国交断絶になってしまいました。

 

サウジアラビアシーア派指導者が処刑されたこと、サウジアラビアとイランの関係が悪くなっていることはニュースで報じられており、断片的には情報は入っていたものの、上記のような歴史の経緯を知らなかったため、これらのニュースの意味を十分理解できておりませんでした。中東情勢を理解する1つの鍵が、サウジアラビアとイランの関係であることを知りました。

 

まとめ

日本も石油を中東から輸入しているため、中東情勢の無知は危険であることが本書を読んでよくわかりました。イスラム教や中東というとなかなかとっつきにくいですが、本書はその入門として最適でしょう。